昨晩の夕飯にトマトの水煮缶を使ってトマトソースのパスタを作ろうと料理をはじめたところ、肝心の水煮缶そのものを買い忘れていたことに気づいた。火にかけられたフライパンでは、熱されたオリーブ油の中でニンニクのかけらたちの色がすでに変わりはじめている。トマト缶とナスだけで作るシンプルなソースをと思っていたけれど、トマト缶は無い。はてどうしよう。
あらためて冷蔵庫と台所とに目をやって、ピーマン、えのき茸、スイートバジル、使い掛けのひき肉、それに生トマト3個を見繕って、トマトは湯剥きをしてフードプロセッサにかけ、味付けには仕方なくケチャップとグラニュー糖、それにバターを使い、フライパンひとつで適当なソースを作り上げた。このソースはパスタが茹で上がるギリギリまで弱火で熱しておいた。盛りつけの仕上げにソースの上にピザ用のチーズをひとつまみほど載せる。食卓に上がる頃にはチーズが溶けソースにいい具合になじむ。
もともと作りたかったものとは全然違うものが出来たのだけど、結局これが意外においしかった。せっかくなのでこのパスタに名前をつけようと思い、その時ちょうどかけていた曲から「トリスタン」と命名することにした。
トリスタン。割りと耳心地の良いネーミングだったようで、翌日妻が「昨日のトリスタン美味しかった」と名前を覚えていてくれた。オペラの内容を思い出すとちょっと待ったをかけたいような生々しい感想だけど、それはおいておくとして仕上がりまでいろいろ面倒だった料理だったことも含め、なかなかナイスなネーミングだった気がしている。半ばやっつけのメニューだったので写真を撮らなかったのが残念だけど、また作ってみようと思う。今度は付け合わせにはサラダでも用意して、そちらは「イゾルデ」とでも呼ぼうかな。サラダの中身に特に指定はない。毎度違って構わない。トリスタンのパートナーは結局イゾルデになる仕組みだもの。